求人広告を出しても、いい人が来ないし辞めていく理由
採用がうまくいかないという相談を最近よく受けます。求人を出しても応募が集まらない、来ても続かない。話を聞いていくと、原因は景気や立地といった外側ではなく、採用のやり方そのものにあることが多いんです。
欠員が出る、広告を出す、なんとか1人入れる、また辞める、また出す。お金は出ていくのに、人が会社に残っていく手ごたえはない。目の前の穴を埋めるだけで1年が過ぎていく。同じことを繰り返している会社はめずらしくありません。
一方で、この繰り返しから抜け出した会社もあります。何が違うのか。
求人はもともと広告だった
求人という仕組みは、長いあいだ広告として育ってきました。枠を買い、よい言葉とよい写真で目を引き、応募を増やす。商品を売るときの手法を人を集める場面にそのまま持ち込んできたわけです。
広告はよく見せるのが仕事です。多少の演出や盛りは当たり前のものとして許されてきました。やっかいなのは、その手法を採用に持ち込んだときに起きることです。
求人票によく並ぶ言葉があります。風通しのよい職場。アットホームな雰囲気。成長できる環境。どれも耳ざわりはいいのですが、よく読むとどの会社にも当てはまる。中身がありません。笑顔の社員写真も実態とずれていれば、入社後のギャップに変わります。
商品の販売と人の採用。決定的に違う点がここにあります。商品なら、買って失敗しても損をするのは買い手だけで、しかも一度きりです。採用のミスマッチは入社した後に何年も尾を引きます。雇った側も雇われた側も、双方が負担を抱えます。盛った分は入った本人が毎日の現場で確かめることになります。隠し通せるものではありません。
応募が増えても辞めていく
期待を高く持ち上げられて入った人ほど、現実とのギャップで早くつまずきます。聞いていた話と違う。そう感じながら静かに離れていく。つまずく場所は仕事の中身だったり、休みや残業だったり、人間関係だったりと、人によって違います。入口で聞いた話と現場が違った、という点だけは共通しています。
測り方にも理由があります。応募が多ければ成功、内定承諾が取れれば成功。短期の数字だけを追っていると、その先の定着が視界から抜け落ちます。採用の本当のゴールは、入社の瞬間ではないはずです。入った人が居着いて、戦力になってくれること。そこまで見届けてはじめてうまくいったと言えます。
いい人の定義
ここで、この記事でいういい人をはっきりさせておきます。能力が特別に高い人のことではありません。自社の実態を分かったうえで入ってきて、長く続く人のことです。相性が合っているから辞めない。当たり前のようでいて、広告的な採用がいちばん取りこぼしてきたのが、この相性の部分でした。
この繰り返しから抜けた会社
一社紹介します。新宿の大京警備保障という警備会社です。
警備員と聞くと、きつそう、体育会系が多そう、若い人は来なさそう、といった印象を持つ人が多いと思います。この会社も長く採用に苦労していました。求人広告に月130万円以上かけても、採れるのは月に一人いるかどうか。
そこで社長が発想を変えます。警備員になりたい人など、そもそもほとんどいない。だとすれば、会社そのものが面白くて、その仕事がたまたま警備だった、という入口を作ればいい。2020年にTikTokを始め、社員の日常や警備の実情を発信し続けました。
やがてフォロワーは数百万人規模まで伸び、テレビにも取り上げられるようになります。採用面では、問い合わせが100人以上、応募が50人以上届き、それまで月に一人採れるかどうかだったのが、一気に10人の採用につながったといいます。広告費で目立たせるのではなく、面白いから覚えてもらえる会社になった。ここが大きな違いです。
(出典:TikTok×おじさんで大バズり!大京警備保障株式会社のSNS戦略とは?|Find Model)
もうひとつ、見逃せない話があります。この会社に入ったある社員は、最初はTikTokをただ眺めていただけでした。何度もおすすめに流れてきて、社名をなんとなく覚えた。転職を考えはじめたとき、その名前を思い出して応募した。入ってみると、社内の雰囲気は動画で見たままだった。今すぐ仕事を探していない人の頭の片隅に残り、その人が動き出したときに思い出してもらう。先に実情を見せていたから、入社後のギャップも起きませんでした。応募をかき集めるのとは、別の種類の採用です。
業種が違っても起きていることは同じ
同じ構図はほかの現場でも見られます。栃木と茨城で足場を手がけるASHIBA株式会社は、足場職人という人の集まりにくい仕事を、社長や若手が前に出て発信しています。給与や道具の値段まで隠さず出し、現場のきつさも若手の成長も見せる。自社が公開している数字では、定着率も上がっているとのことです。
そのほかに介護でも、スタッフが働く姿を動画で見せたところ、未経験の若い層から応募が来て、入社前後のギャップが減ったという例があります。
警備・足場・介護。どれもきつい、自分には縁がない、と思われがちな仕事です。むしろ悪く思われている仕事ほど、実情を見せたときの効きが大きい。悪いほうに想像されているぶん、本当の姿を見せると、思っていたより悪くないという方向にひっくり返るからです。
また、SNSなどで接触効果が生じると、理解した上で「ここで働きたい」という意識が求職者側に生まれます。
変わるのはやり方ではなく経営者自身
ここまで読んで、うちもやってみるか、と思った人ほど、次の壁にぶつかります。この採用はすぐには効きません。
大京警備保障もASHIBAも、何年も続けた先に今の形があります。会社の日常を出し、実情を発信し、見た人のなかから合う人が応募してくる。この流れが回りはじめるまで、月単位、場合によっては年単位かかります。今すぐ一人ほしいという切実さとは時間の流れが合いません。
道は大きく二つに分かれます。
- 外注して任せる。撮影も編集も投稿もプロに預ける。手間は減りますが、月々の費用は続きますし、結果が見えない数か月を払い続ける覚悟が要ります。現場のネタは結局あなたの会社のなかにしかないので、外へ渡す素材を出し続ける役目が社内に残ります。それを誰が担うのか、という問題は消えません。
- 自分たちでやる。費用は抑えられるかわりに、続ける手間が丸ごと社内に乗ってきます。
どちらの覚悟も軽いものではありません。覚悟が決まらないまま手をつけたとき、いちばんやりがちなのが、とりあえずアカウントを作って思いついたときに投稿する、というやり方です。これは続きませんし、続いたとしても採用にはつながりません。ゴールのない発信は本数を重ねても届く先が定まらないからです。
始める前に、紙一枚でかまいません。決めておきたいことがあります。
- 誰に届けたいのか。今すぐ仕事を探している人か、在職しながら気になっているだけの人か、転職を考えてもいない人か。相手によって、出す中身も使う場所も変わります。
- その人に何を感じてほしいのか。この仕事はありかもしれない、なのか、この人たちとなら働けそう、なのか。狙う気持ちが定まると、撮るものが決まります。
- 見た人をどこへ連れていくのか。発信から応募の窓口まで、線を一本引いておく。ここが切れていると、認知が応募に変わりません。
大京警備保障の社長が変えたのは、撮影の技術でも流行りの演出でもありませんでした。警備員を募集するという発想から、会社ごと選ばれる存在になるという発想へ。見る場所が変わったから、出すものが変わった。新しいツールを入れる前に、まず経営者の頭が変わるかどうか。繰り返しから抜けるきっかけはそこにあります。
どこから設計すればいいか
自社のどこを、誰に、どう見せるのか。これを一人で決めるのは、なかなか難しいものです。毎日現場にいると、自社の当たり前が外からどう見えているのか、かえって分からなくなります。魅力というのは、近すぎると見えなくなります。
私たちは佐賀の中小企業の採用と発信を、設計のところからご一緒しています。やみくもに投稿を増やすのではなく、誰に何を届けるかを決め、応募までの道を引く。その最初の一歩を一緒に考えさせてください。