工務店のネット集客を改めて考える
工務店の集客は、その工務店の施工能力・デザイン能力・価格に限った話ではありません。
お客さんの「探し方」と「決め方」が大きく変化しているのに、工務店側の集客のやり方がそのままになっている。ここにズレが生じているように感じます。この記事では、複数の業界調査データを重ね合わせて、このズレがどこで起きているのかを分析しました。
目次
縮小する市場、淘汰される小規模事業者
2024年の建設業の倒産は1,890件、過去10年で最多です(帝国データバンク調べ)。その92.2%が従業員10人未満の小規模事業者。資材と人件費は上がり続ける一方、価格転嫁率は43.7%で全業種平均を下回っており、コストを十分に価格へ反映できていない構造があります。
佐賀県でも、2024年の新築着工数は2,961件。2025年5月にはクレセントホーム(累計1,000棟超・売上過去最高13億円)が破産しました。売上が過去最高だった翌年の倒産です。
棟数や売上が好調であっても、それだけでは存続の保証にならない。限られたパイの中で選ばれ続ける仕組みがあるかどうかが、今後の分かれ目になってきます。
来場前に勝負がついている?
3つの異なる調査を重ね合わせると、一つの構造が浮かび上がってきます。
調査① スタジオアンビルト社(2024年)。工務店を探す際に「最も役に立った手段」を聞いたところ、全世代でSNSが1位。20〜30代では36%がSNSを最も役立つ手段と評価。住宅展示場やネット検索の2倍以上です。
調査② BuildApp News / KengakuCloud社(2026年1月、工務店134社対象)。「問い合わせや接触の前にSNSやネットで詳細に調べている」と感じる企業は88.8%。前年の79.7%から9.1ポイント増。「具体的な相談内容を持って接触してくる方が増えた」と感じる企業も47.8%。現場からは「仕上げのデザインの好みを最初から提示してくるお客様が増えた」という声も。
調査③ アットホーム(2024年6月、400名対象)。見積りを依頼した会社の数、最多は「1社」で34.5%。平均2.5社。79.5%が「こだわりやコンセプトに共感した」と回答。
3つを重ねると、こうなります。
お客さんはSNSで施工事例やルームツアーに触れて工務店を知る(①)。直接コンタクトを取る前に、SNSとHPで詳しく調べて候補を絞り込んでいる(②)。そして3人に1人は、その1社にだけ声をかける(③)。
つまり、工務店に問い合わせが来た時点で、お客さんの中ではもう「ほぼここに決めている」状態。問い合わせや見学会の申し込みは、最終確認にすぎない。選別はその前段階——SNSとHP——で行われている。
逆に言えば、この段階で存在を認知されていない工務店は、比較対象にすら入れません。どれだけ良い家を建てていても、どれだけ担当者の対応力があっても、その力を発揮する機会自体が生まれない。これが「問い合わせが来ない」の正体です。
日常的なSNS投稿「投稿頻度」と「効果実感」の関連性
KengakuCloud社が2025年7月に工務店128社に実施した調査。「集客に効果を感じた媒体」として、SNSの通常投稿(オーガニック)とSNS広告(有料)がともに46.9%で最多。通常投稿が有料広告と同じレベルの効果を出しています。
さらに重要なのが頻度との関係です。毎週コンスタントに投稿している工務店では57.6%が効果を実感。時々投稿する程度では29.7%。ほぼ倍の差です。
なぜ頻度が効果に直結するのか。それはSNSの役割が「広告」ではなく「接触の積み重ね」だからです。お客さんは1回の投稿で工務店を選ぶわけではなく、何度も施工事例を目にするうちに「この工務店、いつも良い家を建てているな」という印象が蓄積される。この蓄積が「候補リスト」に入るための条件になっている。
Instagramのリール動画はフォロワー外にも表示されるため、まだ接点のない潜在顧客にもリーチできます。東海地方のある工務店が2022年8月にInstagramの毎日投稿とリール動画を開始し、半年後から問い合わせが増え始め、2024年に過去最高の20棟契約を達成した事例があります(ジクージン調べ)。
SNSは「イベントの告知ツール」ではありません。日頃の投稿で信頼と共感を積み重ねるからこそ、見学会やイベントの告知が出たときに「行ってみよう」となる。この順序が逆だと機能しません。
HPの役割は、安心感の提供
SNSで興味を持ったお客さんが次にとる行動は、ホームページの確認です。
UNIIDEO社が注文住宅購入者111人に実施した調査では、69.4%が工務店選びでWebの情報を参考にしています。HPで決め手になったコンテンツは、施工事例56.8%、性能・構造の紹介41.9%、お客様の声37.8%。そしてHPを見て得られたこととして「お任せすることの安心感が得られた」が36.5%。
HPは新しいお客さんを連れてくる集客装置ではなく、SNSで興味を持った人が「ここに頼んで安心だ」と感じるための場所として機能しています。SNSが「認知と興味」を作り、HPが「安心と納得」を提供する。この2段構えの導線です。
だからこそ、施工事例の更新が長期間止まっていると影響が大きい。せっかくSNSで興味を持ったお客さんがHPを見たとき、最新の事例が何ヶ月も前では安心感につながりません。更新は集客のためというより、安心感を維持するために必要です。
また、HPへどこからアクセスが来ているかはGoogleアナリティクスとサーチコンソールで把握できます。URLにパラメータを設定しておけば、SNS経由・検索経由・広告経由を分離して確認でき、導線のどこに課題があるかが特定できます。
候補から外される理由の上位は品質ではなく伝え方
エニワン株式会社が1,079人に実施した調査で、ハウスメーカーを選んだ人が「工務店を選ばなかった理由」として挙げた上位がこれです。
- 価格設定がわかりにくい:23.9%
- 情報がわかりにくい:21.6%
- アフターフォローが心配:16.8%
- 施工技術レベルに不安:13.3%
1位と2位は明確に情報の出し方の問題です。3位のアフターフォローについても、実際に工務店で建てた人からは「良かった」という評価が出ている。実態は悪くないのに、それが伝わっていない。
ここまでの分析と合わせると、構造はこうです。お客さんはSNSとHPで候補を選別している。そのSNSとHPに「価格の目安」も「性能の数字」も「アフターフォローの内容」も出ていなければ、「わかりにくい」と判断されて候補から外れる。技術力やサービスの質が劣っているのではなく、その質が選別の段階で見えていない。
最終的な決め手は担当者との相性だが、その土俵に上がれない
リクルートの注文住宅建築者調査(2022年)では、建築会社を選んだ決め手として「担当者の対応が良かった」が43.3%で最多。LIFULL HOME’Sの500人調査でも「担当者との相性」が41.4%で1位。国交省の令和5年度調査では「信頼できる住宅メーカーだったから」が52.2%。
最終的に契約のスイッチを入れるのは「この人に任せたい」という感覚。これは複数の調査で一貫しています。
ただしこの記事で分析してきた通り、担当者に会うまでの導線——SNSで認知→HPで安心感→問い合わせ——が機能していなければ、担当者の力を発揮する場面にたどり着けません。いくら対応力の高い人材がいても、お客さんとの接点が生まれなければ意味がない。集客の課題は、担当者個人の力ではなく、担当者に会ってもらうまでの導線設計にあることが多いのです。
紹介は最強のチャネルだが、仕組みなしには続かない
KengakuCloud社の2025年10月調査で、39.1%の工務店が「知人紹介」に集客効果を感じています。年間10〜30棟クラスの中小では48.6%。51棟以上の大手では11.8%。紹介は規模が小さいほど効くチャネルです。
紹介が継続的に生まれている工務店は、85.9%が既存顧客への定期的なフォローを実施しています。「営業担当者からの個別連絡」58.6%、「メールやSNSでの定期配信」47.7%。イベント型(OB感謝祭等)は18.0%にとどまり、日常的な接点維持が主流です。
ここでもSNSが紹介の仕組みと連動します。工務店が日頃から投稿を続けていれば、OB施主の目にも自然に入る。それが知人との会話で「うちはここで建てたよ」と話すきっかけになる。日常的なSNS投稿が、紹介の種まきを兼ねている構造です。
見学会・イベントの集客も
日頃の積み重ねに支えられている
ゴデスクリエイト社の全国工務店データでは、最も反応が良いイベントは完成見学会。実際に住む人のリアルな空間を見られることが理由です。集客手段もチラシからWEBに移行しており、お客さんの行動は「資料請求」から直接の「問い合わせ・予約」に移っています。
集客が増えた工務店の要因1位は「広告・SNS施策の強化」57.9%(KengakuCloud 2025年7月)。結局、イベントの集客力も日頃のSNS運用に支えられています。普段の投稿で「気になる」と思ってくれている人がいなければ、イベントの告知を出しても届かない。一過性の広告ではなく、日常的な発信の積み重ねが集客の土台になっています。
集客の構造を正しく把握できているか
この記事で分析してきた通り、今の工務店の集客は以下の構造で動いています。
SNSで認知され、興味を持たれる → HPで安心感を得る → 問い合わせ・見学会申し込み → 担当者と会い、「この人に任せたい」で契約
この流れの起点であるSNSに存在していなければ、それ以降のすべてのステップが機能しません。そしてSNSに存在しているだけでは足りず、投稿の頻度・質・導線設計が集客効果を左右します。
候補から外される理由の上位は「価格がわかりにくい」「情報がわかりにくい」。技術やサービスの品質ではなく、その伝え方に課題がある工務店が多いことも、データが示しています。
自社の集客がこの構造のどこで詰まっているのか。SNSの段階なのか、HPの段階なのか、それとも導線のつなぎ目なのか。ボトルネックの特定なしに対策を打っても、的外れになりかねません。
集客構造の分析に興味がありましたら、お気軽にご相談ください。